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東京高等裁判所 平成元年(行コ)53号 判決

控訴人(原告) イーデン電気技研株式会社 外四名

被控訴人(被告) 通商産業大臣

主文

一  本件控訴を棄却する。

二  控訴費用は控訴人らの負担とする。

事実

一  当事者の求めた裁判

1  控訴人

(一)  原判決を取り消す。

(二)  主位的請求

被控訴人が、控訴人イーデン電気技研株式会社の昭和五九年五月二三日付けの、その余の控訴人らの同年九月二六日付けの、各電気事業法施行規則七七条二項所定の法人に指定することを求める申請に対し、控訴人イーデン電気技研株式会社の申請については同年九月二六日に、その余の控訴人らの申請については同年一〇月一五日に、それぞれした右各申請を却下又は棄却する旨の処分を取り消す。

(三)  予備的請求

被控訴人が、控訴人イーデン電気技研株式会社の昭和五九年五月二三日付けの、その余の控訴人らの同年九月二六日付けの、各電気事業法施行規則七七条二項所定の法人に指定することを求める申請に対し、何らの処分をしないことは違法であることを確認する。

(四)  訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

2  被控訴人

本件控訴を棄却する。

二  当事者の主張

当事者双方の主張は、当審における主張を次のとおり付加するほか、原判決事実摘示(ただし、原判決書二二枚目表六行目「専任義務」を「選任義務」に改める。)のとおりであるから、これを引用する。

1  控訴人ら

仮に、法七五条又は規則六七条の二に基づく類推適用ができないとするならば、指定法人の申請権は、現行規則七七条二項により認められると解すべきである旨主張する。

規則七七条二項の規定が法七二条一項の委任の範囲内のものであるとするならば、規則七七条二項の解釈は、平等権、営業権を侵害することのないように、法七二条一項の委任の範囲内に収まるようにしなければならない。

ところで、法七二条一項に規定する主任技術者は、国民が、自己の意思と能力を発揮し、法五四条三項に基づいて主任技術者免状を取得することにより、その地位を獲得できるのであり、通商産業大臣の一方的行政行為により付与されるものではない。

したがって、法七二条一項を授権規定とする規則七七条二項については、指定法人の指定を受ける者に対し、指定法人の指定の申請について審査を求める申請権が同条項自体により保障されているものと解釈しなければならないものである。そのように解釈するのではなく、規則七七条二項における指定法人の指定は、通商産業大臣の一方的裁量によるものであり、法人には指定法人の指定を受けるための申請権は認められないとするならば、同条項の授権法であり、一定の要件を満たせば委任契約の相手方となりうることを保障している法七二条一項に違反する結果になり、委任の範囲を越えることになるからである。

2  被控訴人

控訴人らの主張は争う。

規則七七条二項は一定の場合に主任技術者選任の義務を果たしたとする法的効果を生じせしめるものにすぎず、平等権、営業権とは何ら関わりのない規定である。

法七二条一項は、自家用電気工作物を設置する者が主任技術者を選任する義務を定めたものであり、その選任方法については、通商産業省令において定めることとしている。そこで、規則七七条一項において主任技術者の選任の方法を定めるとともに、同条二項において自家用電気工作物の種類・規模に応じ、保安上支障がないと認められる範囲内で主任技術者の選任を専任の形態以外によって行うという不選任承認制度を規定しているのである。

このように、法七二条一項に規定する主任技術者の選任の方法については通商産業大臣の裁量権に任され、規則七七条二項所定の法人の指定はその一方的行政行為により行われることになるのである。

したがって、控訴人らが、法七二条一項と法五四条三項との関連をもって、授権規定の法七二条一項と右を受けた規則七七条二項を同一関連視し、一方的行政行為的規定であることを無視して申請権が認められるべきであるとしているのは失当といわざるを得ない。

更に、法七二条一項は、右に述べた次第により、控訴人らが主張する委託契約の相手方となり得ることを保障している条項とは解し得ないのである。

三  証拠関係〈省略〉

理由

一  当裁判所も、控訴人らの本件主位的請求に係る訴えは不適法として却下すべきであり、また本件予備的請求はいずれも失当として棄却すべきものと判断する。その理由は、次に付加、訂正するほか、原判決理由説示のとおりであるから、これを引用する。

1  原判決書四六枚目表二行目「五月二六日」を「九月二六日」と改める。

2  原判決書四八枚目裏七行目「しかしながら」から同末行「ものではないこと」までを「しかしながら、右事情聴取は、同控訴人の申請の動機等を尋ねたに止まるものであって、指定法人の指定の要件についての説明又は右要件を示してその該当性に関する質問をするなどは一切行われなかったこと」と改める。

3  原判決書五〇枚目表七行目の次に行を改め、次のとおり加える。

控訴人らは、嶋田は、通商産業省設置法一八条、一九条、通商産業省組織令一五〇条及び資源エネルギー庁公益事業部技術課長平田辰一郎の指示に基づき、被控訴人から控訴人らの本件各申請に関する処分の権限を代行すべき旨命じられていたものであり、右代行の権限に基づいて前記電話による通告をしたものであるから、右通告は、本件各申請に対して被控訴人のした処分というべきである旨主張するが、控訴人ら主張の右法令を精査しても、嶋田に控訴人ら主張の代行権限があること又は右平田課長に嶋田に右代行を命ずる権限があることの根拠を見出すことはできず、右控訴人ら主張事実を認めるに足りる証拠もないから、控訴人らの右主張はその前提において既に失当である。

また、控訴人らは、嶋田は、本件各申請に係る事務の直接の担当者として、被控訴人から右事務に関する取扱いの権限を付与され、かかる権限に基づいて控訴人らの代理人と事情聴取及び折衝を重ねたうえ、同代理人に対し、右電話による通告をしたものであり、控訴人らは、右通告の当時、嶋田が本件各申請に関する処分の権限を代行する権限を有するものと信じ、かつ右の経緯に照らして信ずべき相当の理由があったものというべきである旨主張するが、控訴人らにおいて、嶋田の前記電話による連絡によって、本件各申請に対する処分がなされたと信じたものでないことは、前記認定事実により明らかであるから、控訴人らの右主張は採用の限りでない。

更に、控訴人らは、右の電話による通告が、被控訴人の行政処分としては、代行権限のない者がした点において又は被控訴人の処分意思に基づかない点において瑕疵があるとしても、右通告の内容は、結局は、被控訴人又は通商産業省内部の意思に合致しているのであるから、右処分も結局有効というべきである旨縷々主張するが、右の電話による連絡によって本件各申請に対する処分がなされたものでないことは前記説示のとおりであるから、右主張はその前提において既に失当であり、到底採用することはできない。

4  原判決書五二枚目表末行「同項」を「一項」と改める。

5  原判決書五四枚目裏七行目「電気工作物の保安の確保に関し」から同五六枚目表七行目までを次のとおり改める。

電気事業用以外の電気工作物の保安の確保に関しては次のとおり定められている。すなわち、一般用電気工作物にあっては、通商産業大臣は、一般用電気工作物が通商産業省令で定める技術基準に適合しないと認めるときは、その所有者又は占有者に対し、右技術基準に適合するように一般用電気工作物を修理し、改造することなどを命じ又はその使用を制限することができる(法六八条)とされるとともに、一般用電気工作物が右技術基準に適合しているかどうかは、原則として電気の供給者(主として電気事業者)が、その供給する電気を使用する一般用電気工作物について調査しなければならないとされている(法六七条一項)。これに対し、自家用電気工作物にあっては、前記のとおり、原則として、法七二条一項により、設置者において、その工事、維持及び運用に関する保安の監督をさせるため、主任技術者免状の交付を受けている者のうちから、主任技術者を選任しなければならないとされている。

これは、電気に起因する災害及び障害の防止並びに電気供給義務の遂行のため、法は、電気工作物の自主保安体制の確立に重点を置いているのであって、これを受けて、一般用電気工作物と比較して危険性が大きい自家用電気工作物については、その設置による利益を享受する設置者の責任と費用負担において、十分な知識及び技能を有する者をして右保安の監督に当たらせることとしているのであるが、これに対し、一般用電気工作物については、本来保安の責任は設置者が負担すべきものではあるものの、設置者の電気的知識は必ずしも十分でなく、保安の確保のための検査等を行うことが困難であることを考慮し、電気の供給者に対し、供給する電気を使用する一般用電気工作物について保安状況を調査する義務を課することとしたものと解されるのである。

しかしながら、自家用電気工作物の種類・規模は多岐にわたり、それに応じて確保すべき保安の程度にも差異があるところから、自家用電気工作物の全てについて、専任の形態で主任技術者を選任して保安の確保に当たらせるとする必要性は乏しいうえ、自家用電気工作物設置者のうちには、専任の主任技術者を雇用することが経済的に困難である者も存在することは容易に推認し得るところである。そこで、現行電気事業法の施行により廃止された旧法(昭和二七年法律第三四一号「電気に関する臨時措置に関する法律」)の下においても、主任技術者制度が採用されていたが、旧法施行規則(昭和二七年通商産業省令第九九号)第一条により電気に関する施設に関してはその規定の例によるとされていた自家用電気工作物施設規則(昭和七年逓信省令第五六号)二五条一項は、特別の場合には、主任技術者に他の自家用電気工作物の主任技術者を兼ねさせることができるとし、全ての場合に専任の主任技術者を選任することを必要とはしていなかったのである。これらの事情に鑑み、現行電気事業法の下においても、必ずしも一の事業場又は設備ごとに一人の主任技術者を専任の形態で選任することを常に必要であるとすることなく、自家用電気工作物の保安上支障がないと認められる範囲内で主任技術者の選任を専任の主任技術者を雇用する形態(以下「専任の形態」という。)以外の形態によって行うこととすることも、法七二条一項の許容するところであり、同項は、主任技術者の選任を専任の形態で行うことが必要とされる場合の詳細を通商産業省令に委ねるとともに、専任の形態以外の形態で主任技術者を選任することができる自家用電気工作物の種類・規模の限定及びその際の具体的な主任技術者選任の形態を定めることをも通商産業省令に委ねたものと解するのが相当である。

5  原判決書五七枚目表二行目「ものとしている」を「旨を定めることにより、専任の形態以外の形態で行う主任技術者の選任について定めているものである。」と改める。

6  原判決書五七枚目裏三行目「また」から同五八枚目表一〇行目までを次のとおり改める。

また、指定法人と保安業務の委託契約を締結した場合においては、右契約上の受託者の義務のうち主要な部分である当該需要設備の点検は、当該指定法人の従業員であって、主任技術者免状の交付を受けている者が行わなければならないとされており(昭和四〇年七月一日四〇公局第五九三号公益事業局長通牒「主任技術者制度の運用について」記II1イ)、その限りにおいては、当該指定法人との委託契約を通じて当該指定法人に属する主任技術者免状の交付を受けた者をいわば間接的に主任技術者に選任するものといい得るのであって、該当自家用電気工作物の限定及び保安上支障がないものとしてする通商産業大臣等の承認と併せ、法七二条一項が自家用電気工作物の保安の確保について主任技術者の選任を必要とする趣旨に適合するものであると認めることができる。

ところで、保安業務の委託契約を締結することができる法人は通商産業大臣の指定する法人に限られる。そこでこの点について検討するのに、電気工作物の保安とは電気工作物の工事、維持及び運用に伴う危険及び障害を防止することをいうのであるが、電気が一般国民の日常生活に密接不可分なものであるだけに、電気工作物の保安は広く公共の安全に重要な関わりを持つものであり、保安業務の委託契約も公益に関わりのある契約であるといわなければならない。法は、自家用電気工作物の設置者に対し、原則として主任技術者免状の交付を受けている者のうちから主任技術者を選任することを義務づけているのであるから、右委託契約は、法の所期する主任技術者による自家用電気工作物の保安の監督を実効あらしめるものでなければならず、そのような実効のある委託契約は何人でも自由に受託者としてこれを締結できるものではない。したがって、一方において、自然人たる右契約の受託者を、自家用電気工作物の工事、維持及び運用に関する保安の監督の職務を誠実に行うべき義務が法定され(法七四条四項、五七条)、免状の返納等の規定(法五五条等)により国家が監督権を行使し得る主任技術者免状の交付を受けている者に限定し、そのうちでもとりわけ十分な知識、経験、能力を有する者と認められる者に限るとともに、他方において、法人たる右契約の受託者を、同じく国家が監督権を行使し得る公益法人であって、相当数の主任技術者免状の取得者を擁し、一定地域における需要に応ずることができるなど当該法人に対する指揮、監督を通じて、法が目的とする保安の実をあげ得るような法人に限定することは、むしろ法七二条一項の趣旨に沿うものであり、このような法人の限定を通商産業大臣の裁量に基づく指定に委ねることも、同項の許容するところであって、同項の委任の範囲内にあるものと解するのが相当である。

7  原判決書五九枚目表五、六行目「専任かつ直接的な選任」を「専任の形態」に改める。

8  原判決書六五枚目表六、七行目「いうことができる」の次に「(もとより、自家用電気工作物における主任技術者、電気管理技術者、指定法人は、それぞれ自己の責任においてその義務を履行するものではあるが、雇用契約あるいは委託契約に基づく右の義務の履行は、とりもなおさず、自家用電気工作物の設置者の保安責任の履行として評価されるものであるから、主任技術者等の独立した業務の遂行に関わらず、自家用電気工作物の保安体制は、保安責任を設置者のみが負う一元的な構造であるといわなければならないのである。)」を加える。

9  原判決書六八枚目表七行目の次に、行を変えて、次のとおり加える。

なお、控訴人らは、仮に、法七五条又は規則六七条の二に基づく類推適用ができないとするならば、指定法人の申請権は現行規則七七条二項により認められると解すべきである旨縷々主張する。

なるほど、法七二条一項の解釈としては、主任技術者免状の交付を受けている者は、専任の形態あるいは専任の形態以外の形態で自家用電気工作物の主任技術者となり得る地位を取得していると解することができるのであるが、そのことから直ちに、法七二条一項を授権規定とする規則七七条二項について、指定法人の指定を受けることを希望する営利法人に対し、指定法人の指定の申請について審査を求める申請権をも同条項自体により保障しているものと解釈しなければならないものではない。前に説示したように、規則七七条二項は、自家用電気工作物の保安の監督を主任技術者免状の交付を受けている者をして行わしめるという法七二条一項所期の目的を実質的に達成するために、委託契約の受託者たるべき者を自然人、法人ともに限定しているのであり、その限定が法の趣旨に沿う所以であるから、控訴人らの主張はその前提において失当であり、到底採用することはできない。

二  よって、原判決は相当であるから、本件控訴を棄却することとし、民事訴訟法三八四条、九五条、八九条、九三条一項本文を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 山口繁 安國種彦 安齋隆)

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